『Lobsterr Letter』は、毎週届くニュースレターです。世界中のおもしろいビジネスやカルチャー、未来の兆しになるようなニュースを集め、感想や考えを添えてお届けします。 |
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Language and Cognition
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最近読んだ本や記事、聴いているポッドキャストの内容から「言語」について考えさせられる機会が多かった。
先週読み終えた多和田葉子さんの『地球にちりばめられて』は、留学中に故郷の島国が消滅してしまい、現地で生きていくために自らつくり出した独自言語「パンスカ」を話すHirukoが、テレビ出演をきっかけに言語学の研究者クヌートと出会い、自分と同じ母語を話す人を捜す旅に出る物語。旅の過程での、国や言語を越境していく6人の仲間たちのやりとりからは、言語と社会のかかわり、言語とアイデンティティの関係性、そして母国や母語とは何かを考えるきっかけを与えてくれる。壁にもなれば、架け橋にもなる言語のおもしろさと自由さを教えてくれる小説だった。
もうひとつは、『Emergence Magazine』が始めた、消滅の危機に瀕しているカリフォルニアのネイティブ言語(カリフォルニアという概念ができる遥か昔から存在していたが)とその残り少ない話者たちに焦点を当てたドキュメンタリー・ポッドキャスト『Language Keepers』。このポッドキャストのイントロでは、ここ数百年で数千の言語が地球上から消えてしまい、ユネスコによると、現存する言語の半数が今世紀末までに消滅する可能性が高いと紹介されている。エピソード2では、ウクチュムニ語を流暢に話せる最後のひとり、86歳のマリー・ウィルコックスが、7年かけてウクチュムニ語の辞書をつくったストーリーが語られている。
言語の消滅は、単に言葉が失われるということだけでなく、言語と密接につながっているその土地独自の生活の知恵や多様な生態系についての知識が歴史から忘れ去られてしまうことを意味していると、『Language Keepers』のレンズから見える世界から知ることができる。
認知科学者のレラ・ボロディツキーは、TEDトーク「言語はいかに我々の考えを形作るのか」のなかで、世界で使われている約7,000の言語は、それぞれ異なる音、語彙、構造をもっていて、それらの要素が、話者の方角感覚や色の見分け方、数の概念や出来事の描写方法などの認知をかたちづくっていると説明している。たとえば、「橋」という単語はドイツ語では女性名詞、スペイン語では男性名詞で、橋を表現するときにドイツ語話者は「美しい」や「優雅」といった女性的な言葉を使い、スペイン語話者は「力強い」といった男性的な言葉を使う傾向があるという。
残念ながら、ぼくは文法的性をもつ言語を話せないので、この感覚は想像することしかできない。それでも言語と認知の関係性を知ることは、自分自身の考え方に向き合うきっかけを与えてくれる。このトークの最後にボロディツキーは、オーディエンスにこんな問いを投げかけている。「なぜ自分はこんな考え方をするのか?」「どうすれば違った考え方ができるか?」、そして「どんな考え方をしたいのだろう?」と。
『地球にちりばめられて』のなかで、登場人物のひとりでグリーランド出身のナヌークがこう言っていたのを思い出した。
言語の取得と同時に第二のアイデンティティを手に入れる方がずっと愉快だ。エキスモーであることが恥ずかしいとは少しも思っていないけれど、一つのアイデンティティで終わってしまうのでは人生にあまりにも膨らみがない。
主人公のHirukoの言葉を借りて言えば、言語は自分を遠くまで連れて行ってくれる乗り物のような存在である。そしてときには、たとえそれが不完全なものでも、新しく手に入れた言語は、母語より優れた乗り物になる。
言語を会得することの醍醐味は、より多くの文献が読めるようになり、より多くの人とコミュニケーションが取れるようになることももちろんだが、それ以上に新たなアイデンティティを手に入れ、そして自分の世界観を拡張することにあるのだろう。──A.O
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ブランドがマーチャンダイズに夢中な理由
デジタネイティブ・ブランドは、マーケティングの手段として、コア商品以外のマーチャンダイズ展開に力を入れている。イベントや店舗でギフトとして配られていたトートバッグだけでなく、ブランドのスーパーファンが実際に身につけたくなるようなグッズを販売する。それらを身につけたスーパーファンは「歩くビルボード」になる。
ここ数カ月の間に、多くのDTCブランドが自社ブランドのマーチャンダイズ展開を急速に増やしている。CBD飲料ブランドのRecessは、パーカーやノートブック、帽子などが含まれる「Realitywear」と呼ばれる商品ラインを立ち上げた。創業者のベン・ウィッテは、この取り組みを「お金になるマーケティング」と表現している。
スパークリング・テキーラブランドのOndaは、今年の秋からスポーツアパレルラインを展開する。共同創業者兼CEOのノア・グレイは、「創業当初から、飲料だけに留まらないブランドづくりを計画していました」と言う。Ondaは、90年代のサーフスタイルを2020年代に向けてアップデートしたもので、「アパレルは太陽のような世界観に自然にフィットしている」とグレイは説明する。ビューティーブランドのGlossierも2019年10月にアパレルライン「GlossiWEAR」を発表した。このコレクションは、2014年に限定販売したスウェットを拡張したものになっている。
「わたしたちはいつも、創業初期にエミリー(創業者)が考えていたアイデアに立ち戻るんです。美容に焦点を当てることは変わりませんが、顧客とつながるためのタッチポイントをつくることがブランディングには重要なんです」とGlossierのマーケティング担当者、アリ・ワイスは語る。GlossiWEARはブランドのファンコミュニティを驚かせ、喜ばせるためのブランドの重要な要素になっている。
サプリメントのサブスクリプション・サービスを手がけるRitualの元マーケティング担当者ローレン・クラインマンは、マーチャンダイズは新しい顧客を獲得するために効果的な手法だという。Ritualでは、関係者のために小ロットでつくった黄色いスウェットをSNSで投稿した際に顧客から大きな反響があり、2019年の公式ストアの立ち上げにつながった。ブランドの顧客はこのスウェットを身に付けることで、自分がブランドのファンであることを表現できる。
クラインマンは「需要があるなら、ブランドのファンコミュニティが欲しいものを提供するのは理にかなっている」と述べ、今後もブランドの限定マーチャンダイズは増えていくと予測している。実は、ロブスター編集チームの間でもマーチャンダイズ企画についてはこれまで何回も話にあがっている。その可能性について、読者のみなさんにも意見を聞きたいと思っています。
‘Give your community what they want’: DTC brands are increasingly leaning on merch
6,000ドルの『アラジン』Tシャツ
パンデミックの影響を受け、全米でフリーマーケットが開催できなくなるなか、Instagramで73,000人のフォロワーを有する古着ディーラーのクリス・フェルナンデスは「バーチャル・フリー」をインスタライブで始めた。8月3日に開催されたバーチャル・フリーでは、27歳のディーラー、コービン・スミスが持ち寄った1992年のディズニーアニメ『アラジン』の限定Tシャツが6,000ドルで売れた。このTシャツは、去年12月にスミスが500ドルで手に入れたもので、落札された瞬間彼はライブストリームで涙を流した。
いま、映画のヴィンテージTシャツ市場はかつてないほど急成長している。ほんの1〜2年前までは30ドルで売るのに苦労していたTシャツが、いまでは数千ドルの売値で取引されている。映画のTシャツは、音楽バンドのTシャツに比べて希少性が高く、常に品薄状態にある。映画関連のグッズには、映画館限定で販売されるものや、スタッフの記念品として配られるものが多く存在するためだ。
「映画Tシャツは記憶を呼び覚ましてくれます。それはあなたを思春期に連れ戻してくれるものなのです。Tシャツは、必ずしもクールな映画のものである必要はありません」と、映画Tシャツのバイヤーのケイシー・ジョーンズは言う。この『ウォール・ストリート・ジャーナル』の記事の取材に答えている20〜30代のコレクターは、『ライアーライアー』や『フィフス・エレメント』、『スクリーム』など80〜90年代の映画グッズを大切にしている。
『アラジン』のTシャツに6,000ドルを払った著名コレクター @ShirtCheck(本名はジョシュ・アダムス)は、俳優でデザイナーでもあるスタンリー・デサンティスが手がけたTシャツのアートワークに惹かれたと答えているが、今回は投資目的で購入したと明かしている。アダムスはこのインタビューを受けた週に、映画やテレビ番組のTシャツに1万ドル以上を使ったという。
アダムスは、自分が世界最大級の映画やテレビのTシャツコレクションをもっていると考えており、数週間以内に「Varlago」というECサイトをオープンする。このサイトではモノを売るだけでなく、新しくコレクションを始める初心者へのガイドや彼のコレクションの中身を紹介するコンテンツを配信する予定だ。アダムスは、過去10年間で急成長したスニーカーのリセール市場を参考にしている。去年サザビーズで初期のナイキのスニーカーが43万ドル以上で落札されたように、『アラジン』の限定Tシャツもそのような値段で取引されることになるのだろうか。
「まだまだスニーカー市場には及びませんが、この市場は始まったばかりです」とアダムスは言う。芸術性と文化性が高く、消費者のパーソナルな記憶を呼び起こすプロダクトは、時間が経っても熱狂的なファンベースを築けることがわかる。
$6,000 for an ‘Aladdin’ T-Shirt: The Exploding Movie Merch Market
ビジネス化するアクティビズム
ブランド・アクティビズムが急速に進化している。最近のニールセンの調査によると、スポーツファンの72%が、アスリートはBLM運動に対して重要な影響力をもつと考えている。そして、59%がアスリートがBLM活動に関与することを期待している。加えてスポーツチームの側も、より若く、より人種的に多様な層を戦略的に取り込むことのメリットに目覚め始めている。ナショナルホッケーリーグ(NHL)のソーシャルインパクト担当役員のキム・デイビスは「人々は、正しいことをすることがビジネスにとってもよいことであると信じている」と言う。
忘れてはならないのは、消費者のブランド・アクティビズムに対する評価は2つに分かれるということだ。NBAチーム「ミルウォーキー・バックス」の選手のスターリング・ブラウンが警察に殴る蹴るの暴行を受け、プレーオフの試合でコートに立つことを拒否したことがあった。この行動はSNSで大きく取り上げられ、「ノープレイ(競技を拒否する)」の抗議はほかのスポーツにも広がったが、これには賛否両方の声が集まった。反対する人たちからのチームへの愛着は明らかに低下し、一方で、称賛する人たちのチーム愛は急増した。
消費者は政府よりも企業を信頼する、という研究結果もあるように、ブランド・アクティビズムがますます消費者から支持を求められるようになっている。消費者は、いまやブランドが社会問題に立ち向かうことを当然と考え、逆に、ブランドが立ち上がらないときには驚きの声を上げる。2018年のナイキのコリン・キャパニックを起用したキャンペーンは大きな反響を示したが、「You Can’t Stop Us」のような社会問題関連のキャンペーンへの消費者の反応は、よりマイルドなものだった。ブランド・アクティビズムがより広まるにつれ、消費者のアクティビズムに対する評価も洗練されてきたということだ。加えて、消費者はブランドが社会問題に対してスタンスを取ることを期待しているものの、それらがマーケティングの策略として頻繁に使われていることにも気づいている。
ブランド・アクティビズムはもはや新しいノーマルであり、それに踏み込まない選択肢はない。ただし、より洗練された手法で展開する必要があるのだろう。
Athlete activism or corporate woke washing? Getting it right in the age of Black Lives Matter is a tough game
孤独を癒やすための共同住宅
スウェーデン南部の街ヘルシングボリには、「Sällbo」と呼ばれる実験的な共同住宅がある。2019年11月にオープンした住宅は4フロア51部屋からなっており、住人の半分は70歳以上、もう半分は18〜25歳の若者たちだ。スウェーデン語の「companionship(sällskap)」と「living(bo)」を組み合わせた名前をもつプロジェクトの目的は、孤独の問題を解決すると同時に、社会の団結を強めることである。
住宅関連のNPO団体「Helsingsborgshem」によって運営されるこのプロジェクトは、高齢者たちの孤独問題に対処するために始まったものだ。独立心の高い国民性をもつスウェーデンでは、ほかのどのヨーロッパ諸国よりも若者たちは早く実家を出る。そして福祉サービスが充実しているからこそ、高齢者たちが家族に頼らずに暮らすケースが多い。また、2015年に起こった難民危機もプロジェクトのきっかけになっている。Helsingsborgshemは、スウェーデン社会になかなか馴染めない難民たちに住む場所を提供する必要性にも駆られていた。
そこで2つの問題を同時に解決するために生まれたのが、若者と高齢者がともに暮らす共同住宅というアイデアだった(ここに住む若者はスウェーデン人の場合もあれば難民の場合もある)。年齢は難民に近く、文化や言語はここに住む高齢者たちに近いスウェーデンの若者たちは、難民と高齢者たちをつなぐ「ブリッジ」として機能する。入居希望者にはインタビューが行われ、入居者は性格、バックグラウンド、宗教、価値観などに基づいて選ばれているほか、1週間に少なくとも2時間はご近所の人たちとソーシャライズすることが決まりになっている。これは「異なる世代と異なる文化が出会い、ソーシャルライフを中心とする新しい暮らし方」だと、Sällboのウェブサイトでは説明されている。ちなみに料金は月に£409〜£518と、都心のひとり暮らし用のアパートよりはリーズナブルになっている。
プロジェクトが始まってからもうすぐ1年が経つが、若者たちもお年寄りたちも満足しているそうだ。お年寄りたちは料理を振る舞い、リペアをし、人々をクルマで送る。難民の若者に英語を教えることもある。その代わりに若者たちは、テクノロジーやソーシャルメディアの使い方を教え、ネットで情報を見つける方法を教える。施設にはジム、ヨガルーム、図書館、共有キッチン、クラフトスペースなどもあり、週末にはガーデンクラブや映画上映会も開かれている。
Sällboには国内外の人々が視察にやってくる。すでにスウェーデンの3つの自治体が同様のアイデアを試そうとしているほか、カナダ、イタリア、ドイツ、韓国もこのプロジェクトに興味をもっているそうだ。高齢者の孤独や難民たちがどう現地の社会に溶け込めるかは、多くの国に当てはまる課題である。その2つを同時に解決してしまうSällboのアイデアは、今後世界中に広まっていくかもしれない。
‘It’s like family’: the Swedish housing experiment designed to cure loneliness
カリフォルニアから脱出せよ
著述家でありコミュニケーション論の研究者であるケルシー・ラーのエッセイを紹介したい。2008年、彼女が大学2年生のとき、キャンパスの大部分が全焼したことがあった。カリフォルニア州サンタバーバラにある校舎の尾根から始まった火事は、一瞬にして丘の中腹にまで広がった。それは本当にあっという間で、生徒のほぼ全員が一晩中体育館で過ごす羽目になり、教室や寮、教員の家の多くが炎に包まれた。
当時は、そんなことは滅多に起きなかったが、ここ数年の間に、カリフォルニア州の気候変動が原因の大規模な火災は珍しいことではなくなった。彼女は、カリフォルニア州の各地から3回避難したことがあるが、避難勧告の回数となると10回以上だ。毎年夏になると、すぐに家を飛び出していけるようにパスポート、社会保障カード、外付けハードディスクを入れたバッグをドアのそばに置くようになった。
ラーのいちばん最近の避難は2018年にヨセミテ国立公園で起きたファーガソン火災のときだったが、彼女がそのときに思ったのは、「これで何度目だ? もうこりごりだ」ということだった。火災が道路から数マイル先で有害な煙を出し続けているとき、彼女はここ数年で起きた一連の火災を振り返りながら、「ここでは生きていけない」と気づくことになった。そして、荷物をまとめてカリフォルニア州を去ることにした。
こんな風に感じるのはラーだけではない。『ニューヨーク・タイムズ』によると、アメリカの2人に1人が、環境破壊によってより暑い気候と水不足に悩まされる可能性が高いという。それは大量の人が移住を余儀なくされることを示唆している。フロリダに暮らしていたリンジー・スティーブンソンは、海面上昇が起こり、毎年のようにハリケーンの被害に悩まされる状況に嫌気が差してシエラネバダに移住した(そこでも火災の脅威が絶えないことから、さらに移住を考えている)。もちろん、こうした移住はキャリアの決定にも大きな影響を与える。サラ・カーターは、カリフォルニア州のデスバレー国立公園での仕事に見切りをつけ、以前パートナーと暮らしていたワイオミング州ジャクソン近くのグラン・ティトン国立公園の仕事に就くことにした。また、山火事が持病の喘息に悪いという理由で移住を計画する人もいる。
この問題のひとつは、移住をするにはある種の特権が必要なことだ。ラーが話を聞いたほとんどの人は、自由に移動でき、子どもの教育や家のローンなどのしがらみがないばかりか、十分なお金をもっている。ギリギリの暮らしをしている人はもちろん、このような柔軟な移住はできない。ジョン・ウールマンは、シエラの丘陵地帯で持ち家に暮らしているが、毎年のように起こる、火災と数週間に及ぶ大規模な煙にも関わらず、その場所で暮らし続けている。
カリフォルニアでは、たとえ移住したいと思っても、自分の家が売れるかどうかもわからない。山麓の物件が何年もの間売りに出ているのも珍しくない。しかし、いずれにしても地球規模の気候変動の問題から逃れることはできないのだ。ジェリー・ブラウン前カリフォルニア州知事は最近このような発言をしている。「教えてくれ。カリフォルから出てどこに行くつもりだ? アメリカのどこに行っても同じだ」
I Left California Because of Climate Change
パンデミックと闘うイギリスのシェフたち
イギリスにある多くのレストランは、観光客とオフィスワーカーの減少により先行きが不透明な状況に直面してる。その存続はこれまで以上に、レストランのシェフがどのようにメニューをつくり出し、人材を配置するかにかかっている。夏から秋へと移り変わるこの時期は、食欲がそそられ、イギリスの食材が最も美味しい季節でもあるが、それと同時に、屋外の席の使用が制限され、食材が限られてしまう冬へと向かっていることも意味している。
パンデミックに加えてブレグジットの影響で、レストランは仕入れる食材を大幅に見直している。ブレグジットの影響で、パリのルンギス市場から調達していたフランス産のイチゴは高価になり、パンデミックの影響で輸送には時間がかかりすぎている。4店舗のレストランを経営するヘンリー・ハリスは、この状況を乗り越えるために「メニューを短くし、調理方法を工夫する必要がある」と言う。ステーキはフライパンでつくるソースではなく、冷たいホースラディッシュのソースを添えるようにした。カクテルはつくり置きができるレシピを考案した。
ロンドンで活躍するフレンチシェフのジュリアン・マーシャルは、食材に対する考えを最近変えたという。「今年のスコットランド産のラズベリーやジロールマッシュルームは、フランス産にも負けないくらいの美味しさでした」とマーシャルは言う。かつてはケニアから空輸していたエンドウ豆も、イギリス産のものに変えた。食材の変化は仕入れ先だけではない。ベテランシェフのティム・シーハンは当面の間、高級食材は使わないと決めた。「今年は20年ぶりにライチョウをメニューに入れないことにしました」とシーハンは言う。
週のはじめにレストランで外食することを奨励するイギリス政府主導のイニシアチブ「Eat Out to Help Out」の影響もあり、レストランには少しづつ顧客が戻ってきている。パンデミックの影響で自家製パンを焼いたり、家で料理を楽しむ人が増えたことは事実だ。しかし、人生には自家製サワドーブレッド以上の楽しみがなくてはいけない。
Chefs to cut back and go local
アフリカ・クリエイティブの覚醒
今年8月にナイジェリアの人気アーティスト、バーナ・ボーイが新アルバム『Twice as Tall』をリリースすると、それはすぐにグローバルヒットとなった。昨年の『African Giant』同様、西アフリカの音楽をルーツにもつアフロビートなスタイルに仕上がっている新作は、数十カ国のApple Musicでナンバー1になっている。
バーナ・ボーイは、近年増えているグローバルで成功したアフリカのアーティストのひとりだ。雑誌『Billboard』が2020年5月に特集したように、Davido、ティワ・サヴェージ、Mr.イージーといった世界的に知られるアーティストがアフリカから生まれている。これは近年、西欧のアーティストが積極的にアフリカのアーティストをフィーチャーしていることに加えて、ソーシャルメディアによってアフリカのアーティストたちが世界中のファンをまたたく間に獲得できるようになったことが大きい。その意味で、デジタル化を推し進め、国境の壁をより低くしたパンデミックがこの動きを加速させたと考えることもできる。
アフリカ各国のクリエイティブ業界が成長するにつれて、アメリカ企業もますますアフリカに注目するようになっている。2018年の映画『ブラックパンサー』は世界で13億ドルを売り上げ、最も成功したスーパーヒーロー映画となった。過去4年間で、3大レコードレーベルのユニバーサル、ソニー、ワーナーはアフリカのレコードレーベルを買収し、アフリカ市場に参入し始めている。アップルは今年4月、Apple Musicが利用できるアフリカの国を12から37に拡大し、Netflixはアフリカのオリジナルコンテンツをつくり始めている。またプライベートセクターだけでなく、米政府もアフリカとの関係を強めようとしている。
アメリカと中国の間で緊張感が高まるいま、アメリカにとってアフリカへの投資はますます重要な意味をもつことになるだろう。急速に成長するアフリカ市場に進出することで、アメリカは自国のソフトパワーを維持することが可能になる。そしてアフリカに投資をして生まれたコンテンツは、アメリカに暮らす160万人のアフリカから移民たちのためのコンテンツにもなる。一方の中国もアフリカでの存在感を高めており、中国企業が立ち上げた音楽ストリーミングサービスの「Boomplay」はアフリカにおいてSpotifyやApple Musicと競合しており、テンセントも新たな音楽ストリーミングサービス「Joox」を立ち上げようとしている。
アフリカのクリエイティブ業界がますます世界に影響を与えるようになってきているのはエキサイティングであると思いつつ、この『Foreign Policy』の記事ではアフリカ視点ではなく、アメリカや中国からの視点で"アフリカを利用する"ための取り組みが語られているように見えた。アメリカや中国を経由してではなく、アフリカのクリエイターが自らオーナーシップをもって次のグローバルカルチャーをつくっていくような未来がやってくることを楽しみにしている。
Africa’s Creative Industries Are Ripe for U.S. Investment
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